猫侍魂
ガナン第二帝国 02:




「ゴレオン、あれに会うたか?」
「いや、城内には、お姿はありませんでしたな」
「ふむ……」
「それがしが妃殿下をお逃がし申し上げたのは、前の晩でござる。逃げ延びておられてもおかしくないかと」
「ええ、グレイナルめが来おったのは、ほぼ真南からでした。北海はそう危ないこともなかったでしょう」
「まあ、来る気があるにしても、あいつの寝坊は今に始まったことではないがな」

ガナサダイは、これもぼろぼろの玉座の肘掛に立てかけられていた王錫を手に取って立ち上がると、破れた窓から外を眺める。
目に映っているのは、先ほどギュメイが嘆息したのと同じ、荒れ果て、再生の見込みのありそうにもない彼の国である。

「兵は起きたのか?」
「ざっと見たところ、詰め所に百ばかり」
「……城を直すにも手が足らんか。ひとまず、この世がどうなっているのか、調べねばな。」
「街道はそのままの様ですが、国境いより先は行ってみなければわかりませんね」
「ゲルニック、おぬし、飛べるのか?」
「……どうやら」
「なんと、おれも羽根のあるほうが良かったなぁ」
「行って城下を見て参ります。間諜どもも目覚めておれば集めましょう」
「うむ」
「なあ、鳥目では無いのか?大丈夫か?」

ゴレオンは今度こそゲルニックに、ものすごい顔で睨まれて、いかつい肩をすくめる。どうやら図星らしい、とギュメイは可笑しくなった。この姿に慣れるには、まだ時間がかかりそうだった。

「ゴレオンは牢獄を見てまいれ。それから、兵が居れば集めるのだ」
「はっ」

さしあたっての方針は決まった。状況を把握しなければ、なにも始まらない。
2人(2匹というべきか)が一礼して下がるのを見送り、ギュメイも命令を待ちつつ、ガナサダイが額を押さえたのを見て、眉を顰めた。

「……頭が痛うございますな」
「お前もか」
「どうも、卿らは平気なようでしたが……」

しばらく躊躇するような間があってから、ガナサダイは再び問う。

「声が聞こえるか?」
「はい、先程からずっと」
「鳴っているわけではないのう。頭の芯に直接響くようじゃ」
「……滅ぼせ、と言っているような気がしますが」
「そうだな。おかしいと思わぬか?なぜ、滅べ、ではないのか」
「何かを為すために我らを召還した者がいる、ということですかな」
「……。……供をいたせ、……地下へゆく」
「御意」


Last-Modified:2009/11/12 (Thu) 00:36:01 | written by koyama | 管理モード | Script by 帰宅する部活 | icon by chat noir

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