猫侍魂
ガナン第二帝国 01:




ギュメイが目覚めた所は、帝国城の露台であった。
ふらふらと立ち上がり、見下ろした眼下の景色に、思わずギュメイは唸っていた。
ガレキの合間から、薄暗い瘴気に霞んだ大地が見える。
魔法の力で、年に三度収穫をさせていた広大な農地は、地力を吸い尽くし荒廃させてしまったらしく、至る所に塩と緑青が噴出し、あたり一面に腐臭を漂わせていた。
世界中から狩り集められた奴隷によって築かれた城は、あのグレイナルの炎を以ってしてもほぼ原型を留めていたが、城壁は風雨に削られ丸みを帯びている。まるで長い長い年月を経たかのように……いや、実際、時が過ぎているのだろう、あの時自分は死んだはずだ、と、段々と覚醒していく間にギュメイは考える。
錆付いて崩れていた鎧を捨て、衣服を改めて参上しようと考えたギュメイは、これも錆の浮いた鏡を覗きこんで流石に愕然とした。
そこに映っているのは、一匹の獣人であった。


「また随分と……変わったものだな」

足元にかしこまったギュメイを見て、ガナサダイは珍しく笑った。
ギュメイは憮然としてこめかみを掻いているが、それも大きな猫が顔を洗っているような仕草にしかみえず、余計に主人をにやにやさせるばかりだった。傍らのゲルニックも、くちばしでこつこつと気に障る音を立てている。自分の姿を棚に上げて、笑いを堪えているのらしい。
扉の開く音に振り返ると、半ば腐ったような姿のゾンビナイトに先導されて、小山のような獣人がきざはしを登って来る。ゴレオンであった。

「お…お?ギュメイと……ゲルニック殿か?なんだ、そのまぬけな格好は」
「……将軍に言われたくありませんな」

ゲルニックは割れずに残っている窓を指した。玉座の脇のかがり火を反射して写る自分の姿に、ゴレオンは驚いて声を上げ、いまさらに蹲って自分のヒヅメを撫で回している。
ケ、と軽蔑したように啼くと、ゲルニックは同意を求めるようにギュメイに視線を向けたが、ギュメイはそれには応じず、静かに座っているだけだった。
ゴレオンは愚かではあったが、数百年ぶりに目にしたその愚直さをギュメイはある意味好ましく思った。この猪武者……いまはどう見ても猛牛であるが、彼にいま少し、半端に知恵があったとしたら、この先帝国を復興させる間にゲルニックと無用の争いをするに違いないからである。
ゲルニックは甲高い声で、周りのキラーアーマー達に退室するよう指示した。



Last-Modified:2009/11/12 (Thu) 00:36:01 | written by koyama | 管理モード | Script by 帰宅する部活 | icon by chat noir

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